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患者さんが食べる力を取り戻し笑顔になるのが訪問歯科診療の大きなやりがい

    
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患者さんが食べる力を取り戻し笑顔になるのが訪問歯科診療の大きなやりがい

東京都江戸川区中央4-11-8-4F こばやし歯科クリニック

山澄尚大 往診部長

毎日複数のチームが稼働し、急な依頼にも対応

 東京都江戸川区のこばやし歯科クリニックは2005年の開業以来、ニーズを先取りしたさまざまな取り組みを行ってきた。その一つが訪問歯科診療だ。今日ほど多くはなかった訪問歯科診療を開業時にスタートさせ、徐々に地域に浸透。今や、同クリニックの訪問歯科診療は地域医療を支える重要な存在になっている。

▲「ZOOM UP」No.141にて掲載したこばやし歯科クリニックの記事(2015年発行)

 実は「ZOOM UP」では、2015年発行の141号でこばやし歯科クリニックの訪問歯科診療について取材している。その誌面で、5台の訪問歯科診療車が稼働し、そのうちの1台が嚥下にトラブルを抱える患者宅への訪問診療専用車になっていることを紹介している。当時、訪問歯科診療を担当していたのは齋藤貴之副院長(現・ごはんが食べたい歯科クリニック院長)で、とりわけ摂食嚥下障害に力を入れ、介護職や言語聴覚士(ST)、管理栄養士など他職種との連携にも積極的だった。

その齋藤先生の下で研修医時代を過ごし、訪問歯科診療について研鑽を積んだのが現・往診部長の山澄尚大先生だ。

 「当初よりスタッフは増え、今往診部には非常勤も含めて歯科医師が15名、歯科衛生士が15名、それとスケジュール管理や施設スタッフ、家族とのやり取りなどを行うコーディネーター7名の計37名が所属しています。歯科医師と歯科衛生士それぞれ1名と、必要に応じてコーディネーターが加わった2~3名のチームを組んでいて、多い日には10チームが稼働しています。スタッフの数が多いので、急な依頼にも対応できることが当クリニックの強みです」と山澄先生は話す。

 さらに言えば、年中無休で訪問歯科診療を行っていることも同クリニックが地域から支持される大きな理由になっている。

歯科疾患の口の機能や全身状態の確認も必須

 山澄先生たちのもとにはさまざまな依頼が寄せられる。例えば、義歯が合わないからどうにかしてほしいという依頼の場合、義歯の調整などをまず行うが、これで終了ではない。義歯の状態が落ち着いたら、口腔機能検査を行ったり、反復唾液嚥下テストや改訂水飲みテストなどで嚥下の状況を調べたりして、口が本来持つ「食べる」「話す」「笑う(表情)」といった機能が十分に果たせているかを確認し、必要に応じて口腔ケアや口腔リハビリを行い、口の機能の回復や維持・向上を目指す。そのため、継続訪問となるケースがほとんどだ。

 もう一つ、山澄先生たちが必ず行うのが口腔内も含め、全身的な状態を把握すること。どんな持病を抱えているのか、どんな薬を服用しているか、痛みや発熱はないか、むせが多くないか、きちんと噛めているか、痩せていないかなど、本人はもとより、家族や介護施設のスタッフともじっくりと話をして、さまざまな情報を得ていく。大変な作業だが、そうすることで新たな問題が浮かび上がることが少なくない。

▲全身状態の把握で、特に服薬状況の確認は重要。薬の影響で口腔内に異変が起きる場合がある。

 「以前、義歯の調整が第一主訴で口の中がとても乾燥されている患者さんがいらっしゃいました。その方の服用している薬の影響が考えられたので、ケアマネジャーを通して主治医に薬を変更してもらったところ、口腔内の乾燥が改善しました」

 もちろん、全員の患者さんがすぐに何でも話をしてくれるわけではない。歯科医師、歯科衛生士と名乗る見知らぬ人が自分の家を訪ねて来て、警戒したり緊張したりする人もいる。また、口の中を触れることを嫌がる認知症の人もいる。しかし、山澄先生はけっして焦らず、信頼関係を少しずつ築いていく。「そうした方でも、口腔内の清掃をしてさしあげると口の中がさっぱりして気持ちが良いのでしょう。一気に心の距離が縮まるのを感じます」と山澄先生は話す。

同クリニック内の認定栄養ケア・ステーションと連携した栄養ケア

 齋藤先生の時代と大きく変わったことがある。例えばVF(嚥下造影検査)。VF装置は高額であることから、かつては医科クリニックに備えられている消化管造影用エックス線装置にビデオ機器をつなぎ、VF装置として応用していた。しかし、今は院内に本格的なVF装置が導入されている。

 「訪問歯科診療ではVE(嚥下内視鏡検査)が基本ですが、内視鏡の挿入に強い抵抗を示す患者さんがいらっしゃいます。そういう方には当院でVFを受けていただくことがあります。VEとVFの2つの方法があることで幅広い患者さんに対応できています」

 VFやVEなどの結果、どのような食形態なら安全に食べることができるのかが明らかになると、必要に応じて管理栄養士に訪問栄養食事指導をしてもらうが、以前は外部の管理栄養士に指導の依頼をしていた。しかし、同クリニックでは2021年4月に江戸川区初となる「こばやし歯科クリニック認定栄養ケア・ステーション」をオープンさせた。

 認定栄養ケア・ステーションは、食・栄養に関する幅広いサービスを提供する日本栄養士会認定の地域密着型の拠点施設だ。その役割に日々の栄養相談や特定保健指導、調理教室の開催などと並んで訪問栄養食事指導がある。

 「特に独居の高齢者は自分で調理するのが面倒に思い、適当なもので済ましがちです。そういうときに当院の認定栄養ケア・ステーションに常勤する管理栄養士が訪問し、その方に合った粘度の食形態を提案したり、市販の嚥下調整食を紹介したりして、安全で必要な栄養が補給できるように指導しています」

 同じクリニック内の管理栄養士ということで、以前にも増して密に連携が取れるようになり、より効率的な栄養ケアの提供が可能になったと山澄先生は評価する。

 一方、以前と変わらないのがポータブルユニットのデイジーの使用だ。

 「訪問先でも診療室での診療と同じことができるので心強いです。また、訪問歯科診療において重要なポイントはコンパクトで場所を取らないこと。デイジーはその点も兼ね備えています」

▲真剣な表情で語る山澄先生。デイジー2の良さを熱弁してくれた。

本人や家族、施設職員に口腔ケアを指導

 自立した生活ができている患者さんの場合は月1回、寝たきりや認知症が進み自分で歯磨きをするのが難しい患者さんには月2回訪問している。しかし、月1、2回の訪問で歯周病やう蝕を予防することは難しい。そこで必要になってくるのが日々の歯磨きを中心とした口腔ケアだ。しかし、磨き残しがあるような歯磨きでは予防にはならない。そこで、山澄先生たちは本人や家族、施設職員たちに正しい歯磨きの仕方を指導し、歯周病やう蝕などのリスク低減に努めている。

 「施設の場合、多くの入居者さんがいらっしゃいますし、入居者さんの状況も異なります。その中で私たちが診ているのはほんの一部で、多くの入居者さんの口の健康を守る重要な役割を担っているのは施設職員です。私は施設職員には一人ひとりの入居者に対応する正しい口腔ケアを習得してほしいと思っています」

 多くの患者さんを診てきた山澄先生だが、中でも思い出深い患者さんがいる。むせがひどくて飲み込みに問題を抱えていた人が口腔清掃と簡単な口腔リハビリを続けていくうちにむせなくなり、スムーズに飲み込めるようになった。すると栄養状態がよくなり、体重が増えて体力が回復し、表情までもが明るくなっていった。

 「患者さんが元気になり、QOLが上がっていく様子を見ると、訪問歯科診療をやっていてよかったと心から思います」

最後に、これから訪問歯科診療を始めたいと考えている歯科の先生方へアドバイスをお願いした。

「外来診療のように口の中だけの評価では不十分で、訪問歯科診療では全身的な状況確認が欠かせません。そのためには医科を含めた幅広い知識が歯科医師に求められます。また、患者さん自身の体のことや生活、ご家族との関係などさまざまなことを考慮する必要もあります。とても大変ですが、それにも増してやりがいや喜びがあるのが訪問歯科診療です。ぜひ取り組んでいただきたいと思います」

【医院レイアウト】

▲受付横のボード。顔写真とコメントが掲載されていて温かみを感じる。
▲半個室タイプの診療室
▲診療室
▲特別診療室。左横の顕微鏡と大きな無影灯が印象的。
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