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今知りたい、SDGsへの歯科医院の取り組み~とよだ歯科医院のケースから考える~

    
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今知りたい、SDGsへの歯科医院の取り組み~とよだ歯科医院のケースから考...

熊本県熊本市東区立花3丁目8-3 とよだ歯科医院

院長 豊田正仰先生

 新聞やテレビなどでよく見聞きする「SDGs(持続可能な開発目標)」。異常気象や環境破壊、人権問題など世界のさまざまな課題を解決して、より良い未来をつくるために2015年国連サミットで「SDGs」が採択された。SDGsは世界全体で2030年までに達成する17の目標から構成されている。

 SDGs目標は、国や企業だけで達成するのは難しい。個人の行動も必要だ。

 歯科医院ができることはないか──ホームページのリニューアルを機にSDGs達成という視点で自院での活動を見直したとよだ歯科医院(熊本市東区)を参考に考えてみたい。

■目標3「すべての人に健康と福祉を」

 目標8「働きがいも経済成長も」

 ⇒スタッフが働きやすい環境づくり

 院長の豊田正仰先生がSDGs達成という視点で見直した際、最初に気づいたのが目標3「すべての人に健康と福祉を」である。歯科医院は、まさに目標3の達成に最も近い場所に位置しているではないか。

 「歯科医院にとっての“すべての人”といったとき、私が最も大事にしているのがスタッフです。スタッフが働きやすい環境下で長く勤めることが、結果的に患者さんの健康に貢献すると思っています」と豊田院長は話す。

 働きやすい環境づくりで、同医院が取り組んでいる一つが就業時間内に診療を終わらせて残業をなくすことだ。そのために行ったのが業務の効率化だ。例えば、電話で受け付けて紙で管理していた予約をネットで患者さんに取ってもらうシステムに変更。これによりスタッフの電話対応をかなり減らすことができた。また、高圧ジェット噴射エアフローなど効率の良い器材を積極的に導入することで診療時間の短縮化を図った。

 現在、同医院にいるスタッフは6名で、平均勤続年数は約6年。最長は9年前の改装リニューアルオープン時からのスタッフで、これまでに2回の産休を取り職場復帰している。豊田院長は、「他のスタッフも、出産・子育てをしながら仕事を続けている彼女に続いてくれるのでは」と期待する。

■目標11「住み続けられるまちづくりを」

⇒訪問診療や幼稚園での歯科検診、感染対策に注力

「患者さんが健康であれば、住みよい地域ができる」と考える豊田院長は、月2回ほど高齢者施設で訪問診療を行っている。一方、年少者に対しては、幼稚園での歯科検診を行っている。

 また、患者には歯ブラシセットを購入して家でもそれを使用し、来院時に持参してもらうようにしている。その意図について豊田院長は、「以前は、歯ブラシを滅菌して再使用していました。いくら清潔な状態になっている歯ブラシとはいえ、他人が使った歯ブラシを使うのは気持ちのよいものではありません。また、“マイ歯ブラシ”を持参してもらうことで、滅菌の作業が省けるので業務の効率化にもなります。さらに、歯ブラシの交換のタイミングもわかります」と説明する。

 小児の保護者が一緒に来院した場合は、マイ歯ブラシを使って保護者にもブラッシング指導を行っている。

 感染対策も地域の人々の健康を守るうえで重要なテーマだ。

 同医院では10年ほど前に最も厳しいといわれるクラスB規格のオートクレーブを採用。包装した器具や中空(筒状)の器具も十分に滅菌できるようにした。また、ディスポーザブル製品を積極的に活用している。

 特に、コロナ禍では歯科医院は感染リスクが高いと怖がられたため、豊田院長は口腔外バキュームの使用や高性能の空気清浄機の配置など、それまで以上に感染対策に注力した。

 「スタッフには、標準予防策(スタンダードプリコーション)を意識して万全の対策を行うよう常々伝えています」

■目標4「質の高い教育をみんなに」

 目標8「働きがいも経済成長も」

 ⇒スタッフの勉強会や研修会への参加を全面的に支援

 同医院では毎週1回スタッフミーティングを開催している。そこで豊田院長がよく話をするのが、同じレベルのままではいけないということ。それだけに、スタッフのレベルアップのための援助は惜しまない。勉強会や認定研修会などへの参加費はもちろん、交通費や宿泊費もすべて同医院がカバーする。また、認定を取得すると給料に反映される仕組みも設けている。現在、数名のスタッフがインプラント専門歯科衛生士の資格取得の準備を始めているそうだ。

 2023年9月29日から3日間、横浜で第9回日本国際歯科大会2023が開催されたが、歯科助手も含む全スタッフが参加した。「歯科助手自らが希望しました。実際、歯科助手向けの講演も用意されていたので本人の勉強になるだろうと思い、参加を決めました」と豊田院長。もちろんこのときの全員の費用も同医院がサポートした。

 「学んだことは必ずミーティングで発表し、スタッフ全員で共有するようにしています。スタッフが新たな情報を得ることで、より質の高い口腔ケアを提供でき、結果的に患者さんメリットにつながります」

 歯科衛生士がキャリアアップを図ることで働きがいを感じれば、離職のリスクも低減できると豊田氏は考えている。

■目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」

 目標12「つくる責任・つかう責任」

⇒オール電化から再生紙製袋に至るまでエコな資源活用

 2014年のリニューアルオープンの際に、ライトはすべてLEDを採用した。また、院内はオール電化になっていて、一切ガスを使用していない。エコでクリーンな資源活用を心がけている。

 メモにはコピーのミス用紙を再利用。また、以前はブラシセットをビニール袋に入れて患者さんに渡していたが、レジ袋の有料化が話題になったとき、スタッフ全員で話し合い、再生紙を使った袋に変更した。

 「SDGsを達成するには、こうした小さな積み重ねも重要だと思っています」と豊田院長は言う。

■目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」

 ⇒患者の意識変容を促す

 医療者が歯周病やむし歯を治療したとしても、患者さんがブラッシングを正しく行わなかったり、口腔内を不潔な状態にすると、歯周病やむし歯が再発症しやすくなる。豊田院長は、「自分たちは補助役にすぎません。自分の歯を守るのはご自身です」と必ず患者さんに話している。

 そこには、豊田院長の歯科医師への反省がある。「これまで私たち歯科医師は治療をすることばかりに専念し、患者さんに意識を変えてもらう努力をほとんどしてきませんでした。歯周病やむし歯の再発症を防ぐには、患者さんがそれまでの生活習慣を見直し、歯を守る生活習慣に変える必要があります。それには患者さんの意識変容が必須なのです」。

 患者さんと良きパートナーシップを築くためには、自分たちも努力しなければならない。前述の勉強会や研修会などの参加もその一つだ。

 また、地域医療機関との連携も図っている。自医院での診療が難しいと判断した場合には、熊本市民病院などその患者に適した医療機関を紹介する。

 ソフト面だけでなく、ハード面の充実にも積極的だ。歯科用CTやマイクロスコープ(歯科用顕微鏡)、歯科用拡大鏡など精密な検査・治療に活用できるさまざまな最新機器を揃えている。

■SGDsの理念「誰一人取り残さない」

⇒障がい者歯科への取り組みをスタート

 豊田院長は県歯科医師会の学術理事を務めている。その理事会で、県内には障がい児を診療できる歯科医院が少なく、困っている人たちがいるという議題が上がった。それを聞いた豊田院長はすぐにスタッフに相談し、障がい児歯科診療の勉強会に参加することを決めた。

 SDGsの理念は「誰一人取り残さない」。

 障がいがあろうと、高齢であろうと、年少であろうと歯科医療から取り残してはならない。そんな姿勢を同医院の活動から強く感じられた。

 

 SDGsが採択されて8年が経過し、今まさに折り返し地点を過ぎようとしている。今後ますます一人ひとりの取り組みが求められる。それに伴い、人や社会、環境に配慮した商品を選ぶ「エシカル消費」をする人が増えてくるだろう。そうなれば医療においても、患者が医療機関を選択する際に、人や社会、環境への配慮の有無が判断基準になる可能性は非常に高い。

 選ばれる歯科医院になるためにも、SDGsの目標達成に向けて、自医院できること、すでにしていること、足りないことなどを確認することから始めてはいかがだろうか。

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