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“笑顔創造空間”-患者さまとスタッフの笑顔を創るクリニック

    
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“笑顔創造空間”-患者さまとスタッフの笑顔を創るクリニック

広島県呉市郷町6-31 くろだ歯科クリニック

黒田裕樹先生/黒田景子先生

歯科衛生士に会いに行く場所

 くろだ歯科クリニックを支える主役は院長の黒田裕樹先生というより、主任歯科衛生士で奥様の景子先生を中心とした歯科衛生士たちだ。ホームページの医院名の上に「歯科衛生士に会いに行く場所」と書かれているのだから間違いないだろう。

 「私たちは開業時からずっと予防に力を入れています。予防を担うのは歯科衛生士ですから、この言葉どおり患者さんは私ではなく、メンテナンスを受けるために歯科衛生士に会いに来られます」と裕樹先生は微笑みながら言う。

 開業は2004年。今でこそ、歯科医療界を挙げて予防の大切さが説かれているが、当時はまだ治療が中心で、予防への関心はそれほど高くはなかった。そういう状況にあって同歯科クリニックが予防に注力しようと考えたのはなぜなのだろうか。

 「歯が削られたり、抜かれたりする患者さんを診るのがとても辛かったのです。できれば患者さんにこういう経験をさせたくないと思っていました」。この景子先生の思いに裕樹先生も賛同し、自分たちの歯科クリニックを予防中心にすることを決めた。

 しかしながら、開業当初はむし歯や歯周病など歯のトラブルを抱えた患者さんの来院が多かった。そうした患者さんに、裕樹先生たちは根気強く予防の大切さを伝え続けた。やがて「くろだ歯科クリニックは予防の歯医者さん」との評判が口コミで広がっていき、メンテナンスの患者さんが少しずつ増えていった。

 「今では全患者さんの9割がメンテナンスで来院されます。5台あるユニットが全てメンテナンスの患者さんが占めている時間帯もあります」とお二人は嬉しそうだ。

開業時に掲げた「5つの特徴」

 開業時、裕樹先生たちはくろだ歯科クリニックの特徴を5つにまとめた。その一つは前述の「予防重視」。そのほか「完全予約制の実施」「感染予防の徹底」「わかりやすい説明」「スタッフの笑顔」を掲げた。

 完全予約制にしたのは、時間をかけてじっくりとメンテナンスをしたかったからだ。また、そのほうが患者さんの貴重な時間を大切にできるとも考えた。

 「初めの頃は急患も多く来ていたので、その都度、時間を調整して診ていました。今は午前と午後に30分ほどの急患対応時間を設けています。ただ最近は完全予約制がほぼ100%実施できています」(裕樹先生)

 新型コロナウイルス感染症拡大は医療機関に感染対策の重要性を再認識させたが、同クリニックでは、開業当初より感染対策に注力。世界基準をクリアしたBクラスの高圧蒸気滅菌器具もコロナ禍以前に導入した。

 また、患者さんに使う医療器具は使用直前にならないと滅菌パックから取り出さないなど細心の注意を払っている。 さらに、匂いにも配慮している。「医療機関で薬品の匂いを嗅いで不快な気分になった経験はありませんか?当院では、薬品をユニットのワークテーブルの上に置いたままにせず、使うときに出すようにしています。また、匂いの強い薬品は極力避け、匂いの少ないものを選んでいます」(裕樹先生)

 インフォームドコンセントを重視している同クリニックで患者さんに説明する際に、活用しているのが手作りの100種類以上のリーフレットだ。誰もが理解しやすいように写真やイラストを多用したものになっている。

▲手作りの患者説明用リーフレット。写真が多く使用されている。

笑顔創造空間-スタッフたちの笑顔をつくるために

 裕樹先生は広島大学歯学部附属病院(現同大学病院顎・口腔外科)や中国労災病院の歯科口腔外科勤務などを経て、2000年広島県歯科医師会・広島口腔保健センターに入職した。そこで驚いたのが、歯科衛生士たちの笑顔や患者さんとの楽しそうなやりとりだった。

 「それまでの口腔外科の診療室ではそのような光景はほとんど見たことがありませんでした。こんな診療の在り方もあるんだとカルチャーショックを受けました」と裕樹先生はそのときの印象をこう話す。患者さんと笑顔でコミュニケーションを取っていた歯科衛生士の一人が景子先生だ。「同センターには障がいをお持ちの患者さんが来院されていました。歯科診療への恐怖や緊張感が強い方が多く、その恐怖を少しでも和らげようと私たちは笑顔で接することを心がけていました」。

 歯科診療への恐怖や緊張感は程度の差こそあれ、多くの人が持っている。スタッフの笑顔が溢れるクリニックにすれば、患者さんもリラックスでき笑顔で帰ってくれるだろう。そうなれば患者さんは定期的に通おうという気持ちになってくれるのではないか──同クリニックの5つの特徴に「スタッフの笑顔」が加わった。

 今の裕樹先生たちの合言葉は『笑顔創造空間』だ。スタッフたちが笑顔になるためには、仕事にやりがいを感じることが重要との考えから、同クリニックではスタッフたちの勉強会や研修への参加費はもちろん、交通費や宿泊費も含め全額支給している。スタッフたちは積極的に研修会などに参加し、そこで学んだことを持ち帰って皆で共有したり、昼休みに自主的に予防処置の練習をするなどレベルアップに努めている。日本歯科衛生士会の糖尿病予防指導の認定歯科衛生士でもある景子先生は「学習意欲が高いスタッフばかりで嬉しく思っています。近い将来、認定資格を取るスタッフが出てくるのではないかと期待しています」と話す。

 スタッフの笑顔づくりに関して最近、同クリニックが熱心に取り組んでいるのがワークライフバランスの向上だ。診療時間は9時~18時(勤務時間は8時30分~18時15分)でほとんど残業はない。さらに、2023年4月には水木日の週休3日制を導入した。「連続して2日休めるので家族とゆっくり過ごせたり、旅行に行けたりするなど、スタッフたちはとても喜んでいます」(景子先生)。しかし一方で2日休診だと何かあったときに困るとの声が患者さんから寄せられている。導入して1年近く経ち、今裕樹先生が考えているのが木曜日は治療と急患の患者さんを診察する案だ。スタッフと十分に話し合いながら、患者さんの声とスタッフのワークライフバランスを考慮した診療時間にしていくつもりだ。

▲医院内での練習の様子。

笑顔創造空間-患者さんの笑顔をつくるために

 クリニックに来たら患者さんも笑顔になってほしい、そう願う裕樹先生たちはクリニックの内装にもこだわっている。そこでのキーワードは「歯科医院らしくない歯科医院」。

 1階の入り口でスリッパに履き替え、エレベーターで2階へ。扉が開くと、窓が大きく取られた明るい待合室が迎えてくれる。天井に取り付けられたシーリングファンからのゆったりとやわらかな風も心地よい。待合室でひときわ目を引くのが待合室の一角に設けられたキッズコーナーだ。目いっぱいに葉をつけた1本の木が立ち、子どもたちはその下で自由に遊ぶことができる。

 診療室では、オレンジやピンクなどカラフルなオサダのユニットが患者さんの緊張緩和に一役買っている。

▲歯科医院入口(写真上)。1階からエレベーターを使い2階の待合室(写真下)に来ていただく。待合室は明るく開放的な空間になっている。
▲キッズスペース
▲色とりどりのユニットが並ぶ診療室

 同クリニックの土曜日の午後は歯並び予防の診療に充てている。歯並び予防とはワイヤーなどを用いた本格的な矯正治療ではなく、口腔周囲筋の機能訓練を行いながら取り外しができる装置を使って歯並びと噛み合わせを整えていく治療のこと。「最近、むし歯は少ないけれど、歯並びの悪いお子さんが増えています。それを何とかしたいと思って」と裕樹先生はその意図を話す。

 裕樹先生は広島口腔保健センターに勤めていたとき、老人施設への訪問歯科診療を行っていた。その経験を活かし、開業当初から寝たきりの高齢者や障がいを持っている患者さんのための訪問歯科診療を続けている。

「5つの特徴」から生まれた「40の約束」

 開業時に掲げられた「5つの特徴」をベースに、その後つくられたのが「40の約束」だ。

 「1、私たちは患者さん一人一人のライフスタイルに合わせた、最良の歯科医療を提供します」から始まり、「40、私たちは人生楽しく、ハッピーに過ごします」で終わる40の約束一つひとつからはスタッフ全員の強い意志が伝わってくる。

 20年かけて裕樹先生たちが目指した予防中心の歯科クリニックはほぼその目的を実現したように思える。しかし、裕樹先生たちは「まだまだです」と首を振る。

 「理想は、ユニット5台が常にメンテナンスで使われていること。そして院長はメンテナンスの患者さんのチェックとレントゲンのスイッチを押すだけになること。それが、私たちが考える、あるべき歯科クリニック像です」と景子先生。その言葉にうなずきながら裕樹先生は「過去につくった入れ歯が合わなくなったり、むし歯や歯周病になるケースがどうしてもあるので、治療はまだ必要です。でも、子どものうちからメンテナンスを受けていれば生涯、歯のトラブルのない人生を送ることができます。そういう患者さんばかりになれば治療の必要はなくなります。むし歯や歯周病ではないのに通ってきてくださる、健康な人ばかりが通う歯科クリニックになることが私たちの最終目標です」と言葉に力を込めた。

【くろだ歯科クリニック 医院レイアウト】

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