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歯科医院で取り組む「食支援」のススメ~今から始める口腔管理・摂食嚥下リハに必要な最新知見と実践例~

    
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歯科医院で取り組む「食支援」のススメ~今から始める口腔管理・摂食嚥下リハ...

Ⅰ.今、口腔管理、摂食嚥下リハが「熱い」!

 今、医療・介護の領域で「口腔管理」「摂食嚥下リハ」が注目されています。なぜでしょうか?
 今回はその理由を考えるとともに、歯科医院で口腔管理・摂食嚥下リハを実践するための「ヒント」と「コツ」をシリーズでお伝えしたいと思います。

1)介護の変化

 令和6年度介護報酬改定ではリハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養の一体的取組の推進が提唱されました。

 その前の改定である令和3年度の介護報酬改定では口腔と栄養の取り組みとして口腔・栄養スクリーニング加算(Ⅰ)20単位、口腔・栄養スクリーニング加算(Ⅱ)5単位が新設されていましたが今回はそこに、全身のリハビリテーションが加わり、リハビリテーションマネジメント加算として、リハビリテーション・口腔・栄養の情報を関係職種の間で一体的に共有すれば連携体制加算(同意日の属する月から6月以内793単位/月、6月超473単位/月)が新設されました(図1)。

図1:厚生労働省. 令和6年度介護報酬改定について. 001230330.pdf (mhlw.go.jp). より一部抜粋、独自に作成

 さらに、事業所の従業員が口腔の健康状態の評価を実施した場合において、利用者の同意を得て、歯科医療機関及び介護支援専門員に対し、当該評価の結果を情報提供した場合、1月に1回に限り所定点数(50単位/回)を加算できる「口腔連携強化加算」も新設されました。

 つまり、介護の現場で口腔管理が重要視され、施設が口腔のスクリーニング・評価をし、歯科と連携を強化すれば、施設側が介護報酬を算定できるようになったのです。我々も訪問歯科診療をしていても、歯科と連携を希望し始める施設が増えてきたと感じるのは、このような背景があります。

2)医療の変化

 医療においては、令和6年度診療報酬改定で急性期に早期(入院後48時間以内)にADLや栄養・口腔状態を評価し、リハビリテーション・栄養・口腔管理に関する計画を作成し、それに基づき多職種で取り組みを行う体制を確保するリハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算(120点)が新設されました(図2)。

図2:PT-OT-ST.NET.【Ⅱ-3 リハビリテーション、栄養管理及び口腔管理の連携・推進-①】.① 急性期におけるリハビリテーション、栄養管理及び口腔管理の取組の推進.https://www.pt-ot-st.net/pdf/2024/kobetu/2-3-1.pdfより独自に作成

 つまり、医療・介護現場いずれにおいても、全身機能・栄養・口腔を三位一体として介入することが推奨されているといえます。

 医療において歯科の介入の推進が提唱されていることについては、足利赤十字病院の例で考えてみると、歯科介入前2011年と比較すると介入後2020年では以下のような変化があったと報告されています(寺中 智, 2022)。

 なぜ、歯科介入によってこれほどまでに医療的、経済的メリットが生まれるのでしょうか。同病院のシステムと先進的な取り組みが素晴らしいことはもちろんのことですが、そこには、歯科医療側の問題、摂食嚥下障害者(患者)の増加の問題が潜んでいると考えています。

Ⅱ.「歯科医師過剰」は歯科が作り出した幻想?

 本邦が超高齢社会であることを考えると、歯科医療の需要が年々増加していることは容易に想像できますが、「歯科受診をしたくてもできない高齢者」「医科の疾患で入院後に口腔内が崩壊している方」が未だ散見されると言われています。

 その背景には、「歯科医療難民」の増加が関与しています。医科の外来は80〜84歳をピークに外来受診率が減少しますが、その受け皿として病院への入院や施設等への入所が考えられます。一方で、歯科医療は歯科医療費の95%を歯科診療所で提供し、外来が主体となっていますが、70~74歳をピークにその受診率は減少します(図3、図4)。

図3:年齢別 医科・歯科受診率(人口10万対)
suusan.spot.病院歯科や訪問歯科の役割はどんどん大きくなっています!.https://note.com/suusanspot/n/n64ecca2ad6b6#d2c2b366-e3e4-4907-bac4-1169fc5c7c80​より引用
図4:年齢別 歯科受診率(人口10万対)
国立保健医療科学院.患者調査.歯科口腔保健の情報提供サイト.https://www.niph.go.jp/soshiki/koku/oralhealth/data6.htmlより改変、独自に作成

 その受け皿として、訪問歯科医療が注目されていますが、要介護者全員に1か月1回の訪問診療を想定した試算の充足率は9.9%に留まっており(図5)、都市部への人口集中と過疎化の進行に伴い自力での医療機関へのアクセスが困難な高齢者がさらに増加しています。

図5:訪問歯科における需要と供給のバランス
厚生労働省.2023年5月31日『第8回歯科医療提供体制等に関する検討会』.https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33287.htmlより引用、独自に作成

 もう一つの受け皿として病院が期待されていますが、2021年に実施された厚生労働省の医療施設調査では、総合病院7,152施設のうち、歯科標榜があるのは1,085施設(15%程度)と報告されています。

 つまり、圧倒的に歯科医療を提供する施設が足りておらず、歯科診療所へ通院ができなくなる時点で高齢者の受療機会は失われているのです。25年以上前から声高に訴えられている「歯科医師過剰」は、あくまでも歯科医院に通院できる人々に対する歯科医師数や歯科医院の数を意味しており、現実は「歯科医師過少」と感じています。歯科医師国家試験の合格率が低下し、歯科医師数が制限されている現状から、今後も歯科医師過少が加速することを危惧しています。

 そのため、歯科医療が届いていない、病院・施設・地域に歯科が介入出来れば、歯科医療側だけでなく、医療・介護側も医療的、経済的なメリットがあることは明らかであると考えられます。

Ⅲ.口腔管理・摂食嚥下リハの需要が急増中!

 今、「口腔管理」「摂食嚥下リハ」を必要とする方が急増しています。その背景には、「サルコペニアによる摂食嚥下障害」(Fujishima,2019)との概念が提唱され、臨床上、この病態に該当する方が急増していることが実感として挙げられます。

 入院中に嚥下障害と診断された方の約3割がサルコペニアに起因した嚥下障害であったとも報告されているため(Maeda,2016)、この病態への対応が求められています。我々の病院も摂食嚥下診療を開始し4年が経過しましたが、年々、摂食嚥下障害を主訴に当科を受診される方の病態が複雑化してきていると感じています。これは「紹介元診療科の多様化」に表れています。

 診療開始1年目は嚥下障害の主流と考えられている誤嚥性肺炎を主疾患とする呼吸器内科、脳血管疾患を主疾患とする脳神経外科、歯科領域である口腔外科からの紹介が大半でしたが、年々様々な科から紹介いただくようになりました。近年では循環器内科、腎臓内科、消化器内科、整形外科からの紹介もあります(図6)。

図6:朝日大学病院 口腔管理・食支援センター 摂食嚥下診療開始後4年間の紹介元

 この理由には、当院は誤嚥性肺炎の患者を内科が持ち回りで診察していることも挙げられますが、先述したサルコペニアによる嚥下障害が大きく関与していると考えています。つまり、脳血管疾患や神経筋疾患のように摂食嚥下障害を起こす直接的な疾患がなくても、摂食嚥下障害を発症する方が増加しているのです。そして、この背景には口腔機能低下が関与していると考えています。

 現在の概念では、口腔の機能低下が進行すると「咀嚼障害」や「嚥下障害」など機能障害に陥ると定義されています(図7)。

図7:口腔機能低下症の進行
オーラルフレイル概念図2018を改変、独自に作成

 さらに、口腔機能・口腔衛生とサルコペニア、低栄養との関係は、多くの臨床研究によって明らかになりつつあります。高齢者では口腔機能、特に咀嚼機能が低下すると摂取できる食品や栄養素が減少するため、低栄養、サルコペニアに陥りやすいと報告されています(Azzolino D,2019)。

 つまり、「口腔」は嚥下障害だけでなくサルコペニアや低栄養もきたし、全身的な負のスパイラルを助長する因子として注目されています。我々も入院中の患者を「正常群」と「低栄養群」の2群に分類し、全身と口腔の項目を比較したところ、低栄養群では握力、ピンチ力、ADL、食欲が低下し、さらには口腔湿潤度、舌圧、咬合力、ディアドコなどの口腔機能が低下していました(松尾・谷口,2015)。これらの結果から、近年増加している摂食嚥下障害の方に対応するには、口腔機能や嚥下機能にアプローチに加えて、全身のサルコペニア、栄養への配慮など複合的に介入することが重要と考えられています。

 今回は臨床の現場で感じていることや診療報酬改定の流れ等を踏まえて現状をご紹介しました。次回は歯科における口腔管理・摂食嚥下リハの現状と必要性についてさらに詳しくお話ししていきたいと思います。

参考文献

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