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どんな人でも歯科医療にアクセスできる医院を作る【前編】

    
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どんな人でも歯科医療にアクセスできる医院を作る【前編】

埼玉県川口市朝日2-6-12 はしだ歯科医院

橋田望先生

 はしだ歯科医院は2007年に開業し、2023年にリニューアルをした。一歩足を踏み入れた瞬間、広々とした空間が目に飛び込んでくる。このゆとりは解放感のためだけでなく、車椅子のまま診療室に入れるようにするためだ。医院理念である「ノーマライゼーション~患者さんひとりひとりの身体的・社会的・精神的側面を把握し、最良の医療とケアを提供いたします~」を体現しているといえるだろう。高齢者や障がい者でも歯科医療を受けられるように、どのような取り組みをしているのだろうか。

父の背中を追い、地域に頼られる医療を提供する

 はしだ歯科医院の院長である橋田望先生は、医師だった父の影響を受けて歯科医師を目指した。開業医として地域の人々に頼りにされる姿を見て育ち、自然と自分もそうなりたいと思ったのだそうだ。

手先が器用で工作などが得意だったこともあり歯科の道を選び、神奈川歯科大学を経て東京医科歯科大学(現・東京科学大学)の高齢者歯科学専攻課程を修了した。

 学生時代に特に関心を持ったのは、義歯作製だ。

個性や技術を活かしながら全体をゼロからデザインできることに夢中になったという。今でも義歯作製を強みとしており、患者からの評価も高い。

高齢患者の健康維持やQOL向上を目指して、技術の研鑽を続けている。

「父が医師だったこともあり、口腔内だけでなく全身を診るのが医療従事者の役目だと思っています。特に高齢の患者さんの場合は持病や服用している薬を確認した上で、最適な治療を選択しています」

 実は川口市に医院を構えた理由も、高齢化が進んでいるからだった。

橋田先生の地元は隣のさいたま市の大宮だが、「今まで高齢者歯科で学んできたことを最大限活かせる場所を見つけたい」と考えてリサーチを行い、実際に自分の足で現地を歩いて高齢者が多くいるのを確かめ、立地を決めた。

 2007年の開業時から、オリーブの枝をくわえた白い鳩をロゴマークに採用している。旧約聖書のノアの方舟に由来し、希望や平和の象徴とされている。ロゴマークひとつからも、はしだ歯科医院の温かみのある姿勢が感じられるのではないだろうか。

「今」を診て、「先」を見据えた治療をする

 はしだ歯科医院の1日の来院患者は35~40名。訪問歯科を入れると50名を超える日もある。

「最初に相談できる身近なホームドクター」を目指して開業したというが、まさに実現しているといえるだろう。

 地域密着型の医院のため患者層は乳児から高齢者まで幅広いが、やはり高齢患者の割合が高い。地域のニーズに応えるため、開業当初から訪問歯科を行っている。「もともと高齢者歯科に注力したかったですし、勤務していた医院でも訪問歯科を行っていたので、やらない選択肢はなかったですね」と当時を振り返る。

 橋田先生のモットーは、その時だけでなく、その先を見据えた治療だ。

 可能な限り現状を維持し、症状の進行を最小限に食い止めることを目指している。

 たとえば病院に入院している患者には、退院後に入院前と同じ食事をすることを見越して口腔ケアや義歯の調整を行う。

「病院ではおかゆやスープなどの柔らかい食事が多く、口腔機能が衰えてしまうことも少なくありません。入院中に義歯を外して過ごしていたため、退院後に義歯が合わなくなり食べづらさを感じるようになったという話もよく聞きます。せっかく体の病気が治ったのですから、美味しくご飯を食べて栄養を摂り、少しでも健康を維持できるお手伝いがしたいです」

 その他にも、要介護の患者には誤嚥性肺炎など全身的な病気を予防する口腔ケアを行う、外来の高齢患者にはメンテナンスをして歯の保存に努めて介護リスクを下げるなど、一歩先回りして患者の生活と人生を支える治療を行っている。

 こうした患者に寄り添った医療が提供できるのは、橋田先生はもちろん、スタッフの存在が大きい。歯科衛生士11名は外来担当と訪問担当に分かれており、それぞれの専門性を高めている。

たとえば訪問担当の歯科衛生士は、月に一度、東京科学大学の先生からリハビリや食事指導について学んでいる。本来は飲み込みの検査のために先生に来てもらっているが、この機会を活かして専門家から知見を吸収しているのだ。

 月に一度開催しているミーティングでは、業務フローの見直しなどを行う。一例をあげると、カルテに病気の状態をより詳細に記載して診察に活かせるようにする、受付との連携を密にしてスムーズに治療に入れるようにする、などだ。

さらにマニュアルや患者用パンフレットなどの制作にもスタッフが関わり、医院の経営面の数字も共有する。

 目の前の患者の処置をするだけでなく、運営にも関わり医院の方針やビジョンを理解することで、患者の口腔と健康を守る意識がより高まるのではないだろうか。

▲入口から診療室までの通路が広く、高齢者や車椅子の患者さん、障がい者の方でも安全に移動できる。

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