【第4回】歯科医院で取り組む「食支援」のススメ~今から始める口腔管理・摂食嚥下リハに必要な最新知見と実践例~
知っておくべき栄養・薬剤の基礎知識
摂食嚥下リハビリテーションを行うためには、栄養について考える必要があります。
例えば、十分に食べられていないのに負荷をかけた訓練を行っても疲労するばかりで、ダイエットをしているようなものですし、健康な体を維持するためにも栄養管理は重要です。
そこで、歯科医院で摂食嚥下の診療を行うために必要な栄養の知識について説明します。
Ⅰ.ライフステージで考える摂食嚥下の観点からみた栄養
摂食嚥下の観点からみた栄養を考える際には、患者さんのライフステージを考えることが重要で、大きく分けて2つの段階が考えられます。
①大きな病気は無く、加齢により少しずつ体力が低下している段階
いわゆるオーラルフレイルの段階で、口腔機能低下症や摂食嚥下障害の診断はつかない、もしくは、軽度かもしれませんが、何もしなければ今後そういった疾患に罹患する可能性が考えられる方です。
そのためにオーラルフレイル予防も大事ですが、栄養的な面で言えば「しっかり運動して、栄養バランス良く食べること」が重要です。原因にもよりますが一度悪くなった口腔機能、嚥下機能をリハビリして、改善していくということは大変です。そのためにも、大きな病気にならないように栄養管理をしていくことが大切です。
令和元年の国民健康・栄養調査¹の結果では、65歳以上の運動習慣の無い男性は41.9%、女性は33.9%となっています。
運動をしないと空腹感が得られず食べる量が減ってしまうことが懸念されますし、運動せず食べる量だけ多くても筋肉量が減少し、サルコペニア肥満につながります。サルコペニア肥満とは加齢に伴う主要な身体組成変化であるサルコペニアに(内臓)肥満が合併した病態です²。
BMIは正常、もしくは肥満傾向であっても筋肉量が減少していれば転倒して容易に骨折することが考えられ、高齢者の骨折はADL低下、寝たきりにつながります。
筋肉量の減少を予防するために、運動だけでなく筋肉の原料となるタンパク質を摂ることが重要で、2020年の食事摂取基準³ではフレイル及びサルコペニアの発症予防を目的とした場合、65 歳以上では少なくとも 1.0 g/kg 体重/日以上のタンパク質を摂取することが望ましいとされています。
タンパク質を構成するアミノ酸は生命維持に必要不可欠な、酵素、ホルモンの合成材料等であることから一定量の維持が求められ、不足すると貯蓄源の筋肉を分解して補おうとします。
また、通常アミノ酸が肝臓で代謝されるのに対し、分岐鎖アミノ酸(BCAA:branched-chain amino acid)は筋肉でも代謝されることや、タンパク合成や分解において重要な役割をしていることが知られています。
腎機能の低下がみられる患者さんでは、タンパク質の摂取量が制限されている場合もありますので注意は必要ですが、健康な体を維持し、大きな病気にならないようにするために「しっかり食べて、しっかり運動することに加えて、タンパク質、特にBCAAを摂る」を意識して、鶏ムネ肉や卵、牛乳などを摂取してもらうと良いと考えます。
②病気によりADLが大きく低下した段階
その病気が脳血管疾患であるのか、神経難病であるのか、もしくは生活習慣の結果なのか、様々な要因が考えられますが、いずれの場合においても介入する段階でどれくらい栄養が摂れているかを確認します。
原疾患によってもリハビリの方針は変わりますが、先述した通り必要な栄養量が確保できていないにもかかわらず筋力アップを試みたとしても、筋肉を作る材料が供給されなければ結果的に疲労や体重減少につながります。
また、必要な栄養量が確保されていなければいくら筋肉の基となるアミノ酸を摂っても、エネルギーとして消費されてしまいます。栄養が不足していると考えられる場合には対策をとる必要があります。
1日に必要なエネルギー量を算出する方法はいくつかありますが、一般的にHarris-Benedictの式、国立健康・栄養研究所の式等で基礎代謝量を算出し、活動係数やストレス係数を乗じて算出します。
さらに簡易的に30kcal/kg/日という算出方法も臨床の場では使用されており、その結果を基に現在の栄養量が十分満たされているかを確認します。なお、誤差が生じるため、日々の体重管理も重要です。
なお、栄養評価の手法としては一般的に主観的包括的評価(SGA:Subjective Global Assessment)や、簡易栄養状態評価表(MNA-SF®:Mini Nutritional Assessment-Short Form)があります。
低栄養の診断基準(GLIM criteria)(GLIM:The Global Leadership Initiative on Malnutrition)は、いくつかのスクリーニングツールにより低栄養リスクがあると判断された場合で、診断的アセスメントによりアセスメント基準に当てはまるかどうかを確認し、低栄養診断基準に該当するかどうかを経て、低栄養の重症度判定がなされます。
Ⅱ.栄養障害とサルコペニアの関係性とは?
サルコペニアは筋肉量の減少に伴って身体機能が低下している状態を指します。加齢に伴うものと、疾患によるものがありますが、いずれも筋力、身体機能、骨格筋量から診断します。
サルコペニアの簡易的なスクリーニングとして下腿周囲長(CC:Calf Circumference)(図1)が使用されており、Asian Working Group for Sarcopenia 2019での基準では男性CC<34cm、女性CC<33cmとされています。
入院患者におけるCCと嚥下障害の改善度を検討した報告では、入院時と退院もしくは転院時と比較してFILS⁴が2以上改善した者は、CC29.4cm以上であったことと関連するとされています⁵。
逆説的に言えば、サルコペニアが進んだ状態では嚥下機能が改善することが難しい可能性を示しています。
また、誤嚥性肺炎で入院した患者は、転院・退院時に経口摂取が可能となるか否かについて握力と相関していたこともわかっています⁶。CCは指輪っかテストで簡易的に測定する方法が提唱されています⁷。
経口から必要な栄養量が普通の食事で確保できれば良いですが、経口摂取量が少なく体重の減少がみられる場合は、経口的栄養補助(ONS:Oral Nutrition Supplements)や経腸栄養剤を使用します。
摂食嚥下リハビリテーションを始める際に、患者さんの栄養摂取量が不足していればONSを紹介するか、経腸栄養剤の処方を主治医に依頼するなどしていくことが大切です。
Ⅲ.嚥下機能の低下による経口摂取が困難な場合の栄養療法とは?
栄養療法の決定方法としては、まず消化管機能が安全に使用できるかを確認し、使用可能であれば経腸栄養管理、使用不可能であれば経静脈栄養管理が推奨されます。
経腸栄養管理のうち、概ね4週間以内であれば経鼻アクセスが、4週間以上経腸栄養管理が施行される場合は、胃瘻などの経消化管瘻アクセスが推奨されます。一方、経静脈栄養では2週間未満であれば末梢静脈栄養法(PPN:Peripheral Parenteral Nutrition)を行いますが、脂肪乳剤などを使用しても必要な栄養量を末梢から長期的に確保することは難しく、また血管が耐えられず静脈炎を起こすこともしばしばあります。そのため、2週間以上静脈栄養管理が必要な場合は中心静脈栄養法(TPN:Total Parenteral Nutrition)が推奨されます⁸。(図2)
実際の臨床の場面において、経鼻アクセスでは鼻からカテーテルを胃や十二指腸まで挿入する必要があることから、事故抜去のリスクを考慮して身体抑制が必要になります。その結果せん妄のリスクや本人の苦痛が懸念され、最終的に経腸栄養管理に同意が得られず、末梢輸液管理が継続し必要な栄養が充足できないような栄養管理となることもあるため、リハビリを行う際には現在の栄養管理方法と今後の方針を確認することが必要です。
なお、経鼻アクセスと違い胃瘻からの栄養投与では半固形状流動食を使用することで胃食道逆流の抑制⁹や液状の流動食に比べて短時間で注入することが可能¹⁰となるため、褥瘡予防や介護の負担軽減が報告されており¹¹、リハビリの観点からも介入できる時間に余裕ができる面で有用と思われます。
Ⅳ.嚥下障害を助長する薬剤について
嚥下障害に影響する薬剤として代表的なものが抗精神病薬です。最近主流の非定型抗精神病薬は副作用が少ないとされている一方で、少量の投与でも重篤な嚥下障害や誤嚥性肺炎を発症したという報告もあります。そのため、抗精神病薬の投与の有無については確認することが重要です。
投与される理由については、不穏や不眠によるものがほとんどであり、服薬開始後に摂食嚥下障害が発症するまでの期間はほとんどが1週間以内、半数以上が3日以内であったと報告されています。
一方で、服薬を中止しても摂食嚥下障害が改善するまでに要する期間は、3日以内であった者は3分の1程度、数週間以上要する者が5.5%、回復しなかった者も3.3%報告されています¹²。
これらの薬は看護や介護の負担、日常生活で必要であり投与されていることが多く、致し方ないケースも多くありますが、一方で現在は不要なのに継続されている例や、新たに投与したことで嚥下障害が重篤になることも多く、服薬を中止すると嚥下障害が改善することも多くあるため、嚥下障害の観点から減量できるか、内容の変更が可能か等、主治医に対して嚥下機能についての情報提供や相談をすることが望ましいと思われます。特にレビー小体型認知症では抗精神病薬に対する感受性が高いため注意が必要です¹³。その他、副作用で味覚障害、口腔乾燥を引き起こす薬剤では咀嚼しづらくなり、嚥下障害を助長することも考えられます。また、食欲が低下する薬剤については摂取量の低下につながりますので注意が必要です。
Ⅴ.薬剤を服用する際に注意することは?
口腔機能が非常に低下している場合や、口腔乾燥が著明な場合はOD錠を含め口腔内に残留してしまい薬効が期待できない可能性があります。また、嚥下機能が低下している場合、錠剤の咽頭残留する可能性や誤嚥の危険性もあります。ゼリーや水分の摂取が可能であれば錠剤を粉砕してもらい、ゼリーやとろみの水分に混ぜて服用してもらうことが推奨されます。一部の薬剤では効果が減弱する可能性が報告されています¹⁴が、誤嚥するリスクを踏まえて投与方法を検討することが必要ですので、口腔機能や嚥下機能の観点から服薬が困難な場合は、主治医に情報提供することが重要です。また、おくすり手帳の活用や、薬剤の内容や形状など身近に相談できる薬剤師をつくることも大切です。
謝辞
本執筆においてご指導くださいました、信州上田医療センター栄養管理室長 小川祐介先生、朝日大学病院薬剤部 藤井佑季先生に感謝申し上げます。
参考文献
- 1)厚生労働省:国民健康栄養調査
- 2)小原克彦:サルコペニア肥満,日老医誌,51,99-108
- 3)厚生労働省:日本人の食事摂取基準2020年版
- 4)Kunieda K et al: Reliability and validity of a tool to measure the severity of dysphagia: the Food Intake LEVEL Scale. J Pain Symptom Manage. 2013, 46, 201–6.
- 5)Kimura M et al: Calf circumference and stroke are independent predictors for an improvement in the food intake level scale in the Japanese sarcopenic dysphagia database, European Geriatric Medicine 13, 1211-1220, 2022
- 6)木村将典ほか:高崎総合医療センターにおける誤嚥性肺炎患者の握力及びピンチ力の測定調査,群馬県歯科医学会雑誌,27,39-42,2023
- 7)Tanaka T et al: “Yubi-wakka”(finger-ring)test: A practical self-screening method for sarcopenia, and a predictor of disability and mortality among Japanese community-dwelling older adults. Geriatr Gerontol Int 18: 224-232, 2018
- 8)一般社団法人日本臨床栄養代謝学会編:日本臨床栄養代謝学会 JSPENテキストブック,南江堂,241,2021
- 9)Muramatsu H et al: Difference in the incidence of postoperative pneumonia after percutaneous endoscopic gastrostomy between liquid and semi-solid nutrient administration. Eur J Clin Nutr 73: 250-257, 2019
- 10)合田文則:胃瘻からの半固形短時間接種法ガイドブック,医歯薬出版,2006
- 11)岡田晋吾ほか:半固形化経腸栄養剤の投与が介護負担に及ぼす影響,静脈経腸栄養26,1399-1406, 2011
- 12)野﨑園子:薬剤と嚥下障害,日本静脈経腸栄養学会雑誌31,699-704,2016
- 13)Ballard C et al: Neuroleptic sensitivity in dementia with Lewy bodies and Alzheimer’s disease, Lancet, 351: 1032-1033, 1998
- 14)富田隆ほか:とろみ調整食品が速崩壊性錠剤の崩壊,溶出,薬効に及ぼす影響,YAKUGAKU ZASSHI 138(3),353-356,2018