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カフェのような空間に、100年近い歴史が息づく

    
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カフェのような空間に、100年近い歴史が息づく

茨城県常陸太田市東二町2240-1 鴨志田歯科医院

鴨志田裕子先生

 2021年に移転・新築された鴨志田歯科医院からは、カフェのような雰囲気が漂う。まさか歯科医院とは思わず通り過ぎてしまう患者さんもいるようだ。そんな外観からは想像できないが、茨城県常陸太田市で100 年近く続く医院だ。院長を務めるのは、三代目の鴨志田裕子先生。「先代から受け継がれてきたことを記録に残して広く知ってもらいたい」と始めたインスタグラムには、初代院長の鴨志田誠之介先生が大正 13年に取得した歯科医師試験合格証書から歯科医院を彩るお花まで、医院の過去と現在を伝える写真が並ぶ。裕子先生はインタビュー中に何度も「鴨志田医院の歴史を継承していきたい」と話していた。カフェのような空間に受け継がれている100年近い歴史とは、どのようなものだろうか 。

高3の冬に歯学部進学を決意

 初代院長の鴨志田誠之介先生は曾祖父、二代目院長の鴨志田道子先生は大叔母と血縁関係で受け継がれてきた医院だが、裕子先生は歯科医師になるつもりはなかったという。歯学部進学を決めたのは、なんと高校三年生の冬。道子先生のご主人が亡くなったため「医院を潰すわけにはいかない」と、後継ぎ探しが急務となり、裕子先生に白羽の矢が立ったというわけだ。

 それまでは文系志望で、大学で学びたいと思っていたのは英文や観光、経済など。当時の夢はツアーコンダクターだった。多少の迷いはあったものの、予備校の講師が「これからは理系だ!」と断言しているのを聞いて「あ、そうなんだ」と腑に落ちて勉強に集中し、奥羽大学の歯学部に進学した。

 卒業後は道子先生が義歯を得意としていたため、同大学の補綴科で約2年義歯を専門に学び、その後上京。江戸川区にある宝田歯科の宝田恭子先生の元で勤務を開始。宝田先生の勧めがあり、江東区にある久保歯科で久保秀二先生の元でも勤めるようになった。

 二拠点生活は大変だったのではと聞くと、意外な答えが返ってきた。
「楽しかったです。都会に疲れたら田舎の空気を吸って、田舎に物足りなさを感じたら都会で刺激を受けていました」
東京では街並みや人を観察して、都会ならではのセンスを吸収した。ここでの経験が、今の医院空間につながっていく。

 なお、鴨志田歯科医院へ勤務を始めたきっかけは、当時の院長だった道子先生の怪我だった。休院するのは患者さんに申し訳ないからと、裕子先生がピンチヒッターとして診察することになったのだ。患者さんを第一に考える医院の姿勢が表れている。

▲壁には鴨志田歯科医院の100年近くの歴史の写真が飾れている。

治療に力を入れるより、治療を不要にすることを目指したい

 東京と茨城を行き来する生活を経て鴨志田歯科医院の常勤となり、道子先生が98歳で現役を退くまでずっと一緒に働いてきた。道子先生が得意としていた義歯を継承しつつ、裕子先生は予防に注力し始めた。
「女医ということもあり小児患者がたくさん来院するのですが、治療で泣きわめく姿は見ているだけでかわいそうで。高度な治療を提供するのはもちろん重要ですが、そうならないようにするのが医療人のあるべき姿ではないかと思うようになりました」

 裕子先生が重視しているのは、保護者の教育だ。「おやつを減らして歯磨きをちゃんとしてください」などと一方的に伝えて終わらせることはしない。小児患者の口腔内を見せながら、なぜ虫歯になったと思うかを問いかけ、一緒に掘り下げていく。虫歯の原因は食事と歯磨きだけではなく、口腔内の構造、唾液の量、睡眠など、多数の要因が絡んでいる。両親が食生活を管理していても、知らぬ間に祖父母がおやつを与えていることも少なくない。だから裕子先生は家族構成や生活スタイルなども聞いたうえで、最適な予防方法を提案している。
「保護者にとっては耳が痛い話かもしれませんが、目の前の子供を救うのは歯科医師の責任です。愛をもって説教をしています」その姿勢は保護者にも好評だ。保育園などで口コミを聞いて子供を連れてくる保護者も多い。

 さらに保護者だけでなく、小児患者との対話も大切にしている。早急に治療が必要な場合を除き、「信頼関係が築けるまでは絶対に処置をしない」と言い切る。
「3歳くらいになったら、保護者抜きで子供と1対1で接するようにしています。最初の何回かは、ユニットに座る練習やおしゃべりで終わることがほとんど。無理やり押さえつけたり、何もしないと騙して治療をしたりしたら、二度と心も口も開いてくれなくなります」

 子供の意思を無視して治療を強行すると歯科医院が嫌な場所になって足が遠のき、また虫歯を繰り返してしまう。逆に最初に時間をかけて信用してもらえば協力的になり、一回で何本も治療できることもあるそうだ。信頼関係が築けると、予防メンテナンスへの移行もスムーズになる。
「最初はユニットに座ることもできず泣いていた子が、治療を終えて 『ありがとうございました』とお辞儀をして帰る姿を見ると感動しますね。子供の成長に毎日感動しています。」

 こうした積み重ねが実を結び、患者さんの半分以上が予防メンテナンスのために通っている。乳幼児の頃から通っている小児患者は、歯科医院は帰り際にくじを引ける楽しい場所だと認識しているそうだ。小児患者が親となり、親子で通い続けるケースもめずらしくない。
今年入職した歯科衛生士が、どの患者さんも口腔内の状態が良くて驚いたのも頷ける。嫌々来て治療の痛みに耐えるのではなく、歯を守るために楽しく通い、歯がきれいになるのを喜ぶ。
そんな医院を目指す裕子先生が、院内空間をよりよくしたいと考えるのは自然な流れだった。

▲診療室の横にあるキッズスペース

「誰もがくつろげる医院をつくりたい」

 鴨志田歯科医院が移転・新築したのは2021年。その前は、隣の敷地に3階建ての鉄骨の建物を構えていた。1985年築で2011年の東日本大震災でダメージを受けており、最初はリフォームも視野に入れていた。しかし配管の構造や費用、そして長期休診で患者さんに迷惑がかかることがネックになり移転・新築することを決意したが、難航したのが土地探しだ。近隣を探したものの見つからず途方に暮れていたが、最終的に以前の医院の隣に建てることになった。そこは、道子先生の自宅があった場所だ。当時道子先生は施設に入所しており、医院を建てることを快諾してくれたという。
「先祖代々伝わる土地で医院を続けることができ、より一層気が引き締まりました。」新医院が目指したのは、カフェのようにくつろげる場所。

 裕子先生はカフェが大好きで、カフェに行くたびに内装やインテリアを観察し、店員に施工業者を訪ねることもあるという。ウェブや雑誌からも情報を集め、施工業者も厳選。ログハウスの施工でシェア日本一の企業に依頼を決めた。
「ホテルのような高級感のある雰囲気も素敵ですが、人によっては居心地の悪さを感じるかもしれません。その点、木が嫌いな人はほとんどいないのではないでしょうか。常陸太田市の雰囲気や患者層にも馴染むと思います。」

 待合室のカウンター席とソファー席は、まさにカフェのよう。テーブルと作り付けのマガジンラックには絵本、雑誌、エッセイ、実用書などあらゆる書籍が並び、待ち時間をゆったりと過ごせる。

 レントゲン室の扉を開けると、クジラと魚のウォールステッカーが目に飛び込んでくる。この辺一帯の地形が鯨の背に似ていることから鯨ヶ丘と呼ばれているのにちなんで、裕子先生がご家族と一緒に貼ったそうだ。
小児患者には「これから写真を撮るから、お魚の数を数えておいてね」と声をかけることもあり、子供を飽きさせない仕掛けにもなっている。クリスマスシーズンには鯨にサンタクロースの帽子をかぶせる遊び心も忘れない。

 こだわりは診察室も同様だ。入った瞬間に目を引くのが、大きな全面窓。窓の向こうに広がる庭は、プロに定期的にメンテナンスを依頼している。
実はここにも、鴨志田歯科医院の歴史が受け継がれている。移転前の医院にも全面窓があり、遠くまで見渡せる解放感が患者さんに好評だったのだ。雰囲気がガラリと変わっても、鴨志田歯科医院らしさが継承された空間にするのは譲れないポイントだった。

 こんなに快適な空間なのに、“クレーム”もあるという。「ゆっくりしたいのに、すぐに順番が来てしまう」「待ち時間が短くて、本が読み終わらない」などだ。
裕子先生は歯科医師1年目から処置の時間を厳守するよう徹底的に教育されてきたので、アポイントの時間がずれ込むことはほぼない。待ち時間が短いのは本来喜ばしいことだが、この快適な空間ではマイナスになってしまうのだ。少しでも患者さんの要望に応えられるよう、本とおもちゃの貸し出しを始めたという。「ここでコーヒーを飲みたいという要望はずっといただいていて、そろそろ本格的に検討しようかなと考えています」

▲カフェのような待合室のソファー席(写真上)とカウンター席(写真下)
▲クジラと魚のウォールステッカーが貼られているレントゲン室
▲大きな全面窓のある診療室

機能にも人にも満足できるOSADAのユニット

 カフェのような空間にもスッとなじむのが、OSADAのユニット「スマイリーNプラス」だ。
1台はリニューアルに合わせて新規に導入し、もう1台は移転前から使用している。ただしキャビネットの色に合わせてシートをイエローからグレーに張り替えた。キャビネットももちろん、院内に溶け込むようにオーダーメイドで作製してもらったものだ。
「OSADAのユニットは都内の医院でもずっと使っていたので、OSADA以外は考えませんでした。壊れにくいし、なにか不具合があったときもすぐに担当者が駆けつけてくれるので安心です。長期間待たされたことは一度もありません。担当者が変わっても同じく丁寧に対応してくれるので、会社全体がそういう体制なんだと思います。機能面はもちろんですが、なによりOSADAさんは人がいいですね」

 ユニットの座り心地は患者さんからも好評で居心地のいい空間づくりに貢献している。
「東京にいるときは自然と色々な情報が入ってきましたが、地元では意識してアンテナを立てて情報を獲りに行く必要があります」
こう話す裕子先生のセンスの良さが感じられる鴨志田歯科医院。楽しく通えるだけでなく、「帰りたくなくなる歯科医院」は珍しいのではないだろうか。

 医院全体から温かい雰囲気が感じられる理由は木のぬくもりだけでなく、先生の優しくてまっすぐで勉強熱心な人柄のおかげだろう。

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