【第2回】歯科医院で取り組む「食支援」のススメ~今から始める口腔管理・摂食嚥下リハに必要な最新知見と実践例~
前回は臨床の現場で感じていることや診療報酬改定の流れ等を踏まえて現状をご紹介しました。
今回は歯科における口腔管理・摂食嚥下リハの現状と必要性を私が実際に行っていることも交えながらお話しします。
Ⅳ.歯科は介護・医療の要望に応えられているのか?
前回で触れた介護・医療の要望(期待)に応えるように、令和6年度歯科診療報酬改定では口腔機能に関する項目が変わってきました(図8)。
今まで、社会の要望に対して、歯科が少し遅れているように感じていましたが、ようやく少しずつ変わりつつあります。
具体的には、かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所から口腔管理体制強化加算と名称が変更された加算では、「口腔機能管理に関する実績があること」との文言が追加されました。また、今まで口腔機能低下症に対して口腔機能管理料のみでしたが、リハビリテーションの実施を推奨する「歯科口腔リハビリテーション料3(50点)」が加わりました。歯科衛生士においても歯科衛生士実地指導と併せて口腔機能に関する指導を行った場合に算定できる「口腔機能指導加算(10点)」が新設されました。今後もこの分野には診療報酬の新設や加点が見込まれています。
つまり、歯科診療報酬改定からも分かるように、歯科もこの分野の重要性を理解し、強化しようとしていることが見受けられます。
Ⅴ.多職種連携のすすめ
当院では2020年より歯科が中心となり、摂食嚥下診療を開始しましたが、当初は歯科医師1名と歯科衛生士1名しかおらず、口腔機能低下や摂食嚥下障害の方を診療に繋げることは非常に困難な状況でした。
そこで、口腔管理や摂食嚥下リハの診療を優先するのではなく、まずは仲間を作りました。つまり、チームを作りました。これは歯科医療者、特に歯科医師が不得意とする分野かと思います。
私自身もそうですが、歯科医師は自分の考えや、歯科医院の考えで完結する小さな会社であるため、その必要がありませんし、学生の頃も授業で習うこともありませんでした。いきなりチームを作れと言われてもできるわけがありませんので、私はいつも「気の合う」「目指す方向性が同じ」医療職と最初に繋がるようにしています。近年では、この気の合う仲間は「管理栄養士」であることが多いように思います。誰でも、現在の体制やシステムの改善を求めていることが多く、近年需要が高くなり改革を求められているのが管理栄養士だからかもしれません。
まるでロールプレイングゲームのように、最初に誰かと繋がれば、力が2倍になるのでそこから徐々に仲間の数は増えていきます。
我々も最初は1人、2人でしたが最終的には医師、歯科医師、看護師(摂食・嚥下障害看護認定看護師)、言語療法士、管理栄養士、薬剤師、歯科衛生士で構成される摂食嚥下サポートチーム:Swallowing Support Team(SST)を設立しました(図9)。
SSTの活動は徐々に病院内で周知され、SSTの組織化と、SSTの活動を病院外へ周知するための地域連携の窓口として2023年8月に口腔管理・食支援センターを開設しました(図10)。
上記のようなチームは病院だからできるのでは?と思われるかもしれませんが、地域での診療や歯科訪問診療でも我々は職種間で繋がるようにしています。逆に病院のほうが、それぞれ職種で「領域」があるので新しいチームを作るのは難しいとも言われています。
地域や訪問のほうが、それぞれの職種が個人の考えで動いていることが多いため、繋がりやすいとも考えています。訪問歯科診療では「連携のキーパーソン」と最初に繋がるとその後の連携が上手くいくことが多いと思います。その役割はケアマネジャーや訪問看護師、もしくは家族が担っていることがあります。
いずれにしても、 情報が錯綜している現状では、口腔管理や摂食嚥下リハを実施する際に(特に摂食嚥下リハ)、栄養管理や薬剤調整、発声訓練まで全て我々歯科医療者がすべきと思われがちですが、全くそんなことはありません。口腔管理や摂食嚥下リハを成功させるには、ある程度多職種と連携できる知識と共通言語を持ち、多職種と繋がり、その後の調整は専門職にお任せすることをお勧めします。
恥ずかしながら、私は摂食嚥下リハを専門にしていますが、「栄養をこれだけ増やすべき」「この薬剤は中止すべき」などの強い提言はしないようにしています。困った際は多職種と相談・連携しながら、最終的には専門職(場合によっては本人・家族・施設の方針)に判断をお任せするようにしています。
Ⅵ.やっぱり、口腔管理・摂食嚥下リハが出来る歯科医療者が足りない…
SST、口腔管理・食支援センター設立後に当院では年々新患患者数および介入数は増加していきました。COVID-19の影響もあり、患者数が減少した時期もありましたが、1年目に144名だった新患患者数は4年目には286名となり約2倍増加しました(図11)。
先述のように、摂食嚥下障害患者の顕在化は明らかであり、口腔管理、摂食嚥下リハを始めればその対象者が増えていくのは、どこの施設でも同様と思います。
一方で、課題も山積していると感じています。特に大きな課題として、摂食嚥下リハに関わる歯科医療者が地域で圧倒的に足りていないと感じています。
当院では一度退院した後に誤嚥性肺炎で再入院する患者が散見されます。当院入院中はSSTの介入やセンターの利用により摂食嚥下機能に適した食事形態、栄養管理が提供出来ていますが、地域で担い手が不足しているため、継続した口腔管理や摂食嚥下リハが困難と感じています。現在は上記のような問題を解決すべく、以下のような取り組みを開始しました。
1)摂食嚥下リハに特化した「歯科訪問診療」の開始
専門的な介入が継続して必要である①重度摂食嚥下障害患者、②集中的な嚥下リハで改善が見込める患者、③嚥下障害の対応が難しい神経筋疾患患者を対象として当院から摂食嚥下リハ専門の歯科医療者による歯科訪問診療を開始しました。
当院での往診は1ヶ月~半年に1回とし、普段の口腔ケアや歯科治療は地域歯科医師会の先生方にお願いしております。
2)地域歯科医師会との連携強化
地域で担い手となる歯科医療者が不足していると感じるのは、病院と地域歯科医院の連携が希薄であることも原因と考えています。つまり、医科歯科連携が重要視されがちですが、その前に歯科歯科連携が必要と考えています。
そこで、病院と地域歯科医師会を繋ぐ①歯科歯科連携、➁医科歯科連携を推進しています。①歯科歯科連携は周術期口腔機能管理の継続管理、1)のように摂食嚥下リハや口腔管理を継続して実施するために歯科医師会へ紹介しています。
3)嚥下障害の疑いがある方の2週間短期入院「嚥下パス」の導入
地域連携の一環として「嚥下評価・訓練入院(嚥下パス)」を運用しています。地域で療養し埋もれてしまっている嚥下障害のある方、誤嚥性肺炎を繰り返す方の受け入れ先として地域中核病院が役割を果たすべきと感じています。
誤嚥性肺炎を未然に防ぐことで、「地域医療の向上」および「地域共生社会を実現」するためには地域と病院が繋がることが重要と考えています。
上記のような取り組みを開始しましたが、やっぱり口腔管理・摂食嚥下リハをお任せできる、つまり口腔管理・摂食嚥下リハの担い手となる歯科医療者が圧倒的に少ないと感じています。
ただ、未来は明るいとも思っています。若手の先生を中心に、口腔リハや摂食嚥下リハの分野に興味を持っている先生方が増えてきていると強く感じています。
ありがたいことに、当科では専攻生(1週間に1日当科で臨床)や大学院生を募集していますが、多くの開業医の先生方が興味を持ち参加してくれています(図12)。
そんな信認している先生方や当科若手の先生方、多職種の方々のお力添えにはいつも感謝するとともに、持ち帰った知識や技術をそれぞれの地域で広めていただけることを待望しています。
最後までお読みいただきました先生方、歯科医療者の方々に最後にメッセージをお送りします。
「口腔管理」「摂食嚥下リハ」を当たり前のよう歯科医療者が実施する時代が5年後、10年後には必ず来ます。その時代が来る前に、早めに歯科医院へ導入することをお勧めします!
その方法、基礎的な知識、実践例、若手が考えるこれからのリハを今後のシリーズでお伝えしますので、楽しみにしていてください!